透明天井

傘を持ってくるのを忘れました。

引き返すのが面倒で、電車に乗ったところ、案の定しばらくしてから

雨粒が窓にぶつかり始めました。

 

電車を降りると、どうにも無視できない降りよう。

仕方なく、売店でビニール傘を購入しました。小さな敗北感を感じます。

 

久しぶりにビニール傘をさしてみて、わたしは、あれ、と思いました。

雨の日って、こんなに明るかったっけ。

 

通常の色つき傘は、雨を防いでくれる代わりに、頭上の視界も遮って

しまいます。

その傘の色全体が、自分にかぶさってくる感じ。愛着のある傘だから

いいけれど、ちょっと重たい感触でした。

雨の日はそういうものだと、長らく思っていたのです。

 

一方、ビニール傘はスケルトン素材ゆえ、先を歩く人も、横断歩道も、

傘に当たって流れる水滴も、傘越しに見ることができるのです。

太陽の淡い光も遮らないから、頭の上に影を作りません。

それは、思いがけず開放的な感覚でした。

 

ビニール傘は、雨の風景を、いつもとまったく異なるものに変えました。

一人用の透明カプセルか、ガラスのドームをかぶって見るような景色は、

晴れた日とも異なる、軽やかな眺めでした。