ポッチ

あとで聞いた話によれば、その時棚の奥にあったものを、むず、とつかみ出して、

よく見もせずにレジへ持って行ったらしい。

何かとせわしい年末のことです。

 

おもちゃ屋のおばさんは、今箱切らしてるのよ、と言って、それを包装紙で無造作に

包んで渡してくれました。

1000円札を出したらおつりが来た。

やれやれ、これでひとまず済んだ。よかったよかったと、包みを持って帰ったのだそうです。

 

25日の朝。目を覚ますと、わたしの枕元に包みが置いてありました。

「サンタさんからだ!」

意気揚々とセロテープをはがし、がさがさと開けた中から出てきたのは、小さな

白黒ウサギのぬいぐるみでした。

よかったねえ。サンタさん、ウサギちゃんくれたんだねえ。

わたしはウサギを持って、まじまじと見つめてしまいました。

 

今年は特に、サンタさんにプレゼントのリクエストはしなかった。

でも、サンタさんには不思議な力があるので、きっと言わなくても本当に欲しいと

思っているものをくれるだろうと考えていた。

 

わたし、これ欲しかったのかな

 

その時、具体的に欲しいものが他にあったのかどうか、覚えていません。

ただプレゼントの内容が意外だったのは確かで、へええ、などと言いながら、しばらく

ウサギの短い手を持って、ひらいたりとじたりして遊びました。

 

かつて家族がかわいがっていた、ポチという犬のぬいぐるみに似ていたので

「ポッチ」と名付けられたウサギは、その後の子ども時代の苦楽を共にした

きょうだいです。寝る時も一緒。ごはんを食べる時も一緒。

いじくりまわし、数度の洗濯を経てすっかりくたくたになった今も、家にいます。

ファーストコンタクトがいまいちだったにも関わらず、こんなに大事な存在に

なった人形も珍しいです。

 

やはりサンタさんには、わたしが本当に欲しいものがわかっていたのでしょうか。

子ども時代のクリスマスの思い出でした。