とうめいなぼうし

ずっと昔のこと。

幼稚園で、わたしは友達とおしゃべりをしていました。

その子が、今度おうちを引っ越すから、幼稚園を変わらなければ

ならないと言いました。

 

わたしは、ごく単純な質問をしたと思います。

おそらく、どこに引っ越すの、とか、いつ引っ越すの、とか。

しかしなぜか、質問の意味が彼女にうまく伝わりません。

気がついた時には、わたしは泣きながら床に転がって、

じたばた暴れていたのです。

 

かけつけた先生はわたしをどこかへ引っ張って行くと、

なぐさめるように言いました。

「〇〇ちゃんが遠くへ行っちゃうから、さみしくなっちゃったんだね」

 

ああ、そうじゃない。

感情を爆発させたのは、伝えたいと思ったことが相手に伝わらなかった

苛立ちのせいで、別れの悲しみからじゃない。

別離の意味がわかるほどに、わたしはまだおとなではありませんでした。

 

伝えたいことが伝わらない、苦しさ、もどかしさ。

幼い頃のそれは、圧倒的な語彙力の不足や、伝える手段の少なさや、

未熟さに起因するものです。

 

そういえば当時、不器用にまわりを混乱させる「困った子」たちが

いました。

今になってみると、彼ら彼女らの気持ちが少しわかる気がして、

しんみりしてしまいます。

 

ひみつ道具よろしく、自分が考えていることを相手に伝えることのできる、

すてきな装置があればいいのに。

そんな発想から、今回のグループ展示のために「とうめいなぼうし」という

お話を描きました。

大人になって、あの頃感じていた生きにくさは大分薄れてきましたが、

作品という形で何を、どうやって伝えていこうかということに対しては、

模索の日々です。

 

展示は本日が最終日となります。

ご来場いただいたすべてのみなさまに、感謝申し上げます。