Nさんのこと

子どもの頃、わたしをかわいがってくれたおばあさんが

いました。

腰が曲がっていて、キノコみたいな髪型で、首巻きをした

小柄な人でした。

わたしに会うたびに、にこにこ笑って、

「いつもすてきなスマイルをありがとう」と言うのでした。

 

いつの頃からか、わたしはそういうことが疎ましく感じる

ようになり、道の先で彼女の背中を見つけても、一緒に

ならないようにわざと遅れて歩いたりしていました。

 

おばあさんはある時、自宅でひっそりと亡くなったと聞きました。

しばらくするとその小さな古い家は取り壊され、今では別の家が

建って4人家族が住んでいます。

まったく跡形も無くなったその場所に、前はびわの木があったなあと、

ふと思い出すことがあります。

 

応えられなかったことや上手く返せなかったことへの後悔は、

時間が経つにつれてちくりと痛みます。

「ありがとう」のことばに込められた心を思うと、なんだか切なくなり、

幼かったからこその不義理を、今になってあやまりたいと思う。

 

色々な人との出会いや別れが、わたしをここまで成長させてくれたのだと

思っています。

その感謝を感じずにはいられない今日この頃です。